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簿記の観察#6 日本における複式簿記の成り立ち

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これまで何となく作ってきたものを、現実の簿記に近づけるにあたり、複式簿記の2つの帳簿(仕訳帳、総勘定元帳)と、実際の運用に用いられる様々な補助的な資料の関連と成り立ちについてまとめてみることにしました。(簿記の試験用テキストで調べただけでよく理解できてなかったので)

先に日本に複式簿記がもたらされた背景を調べ、その後国内でどのように法整備されたのか、を調べました。

複式簿記の伝来

日本で複式簿記が使われるようになった経緯として一般的に知られているのは、14-15世紀にイタリアで生まれた記帳方式※が、オランダ、イギリス、アメリカでの発展を経て、明治時代に日本にもたらされた、というものです。(※複式簿記の起源には諸説あり*1


14-15世紀にイタリアのルネサンス期にヴェネツィアの商人たちの間で使われるようになった複式簿記が、イタリアの数学者ルカ・パチョーリの書(『算術、幾何、比及び比例要覧』によって世の中に知られていくことになった
*2。(通称『スムマ』=「体系」の意。左記著書の最初の単語)

日本で使用されるようになったのは、イギリスの銀行員であったアレキサンダー・アラン・シャンドが大蔵省に招聘された時に紹介された英文書を、1873年~74年(明治6-7)にかけて福澤諭吉が翻訳・出版した『帳合之法』が起源とされている*3。特に明治7年の第二編が複式簿記。4年後の1878年(明治11)には「太政官第42号通達」によって複式簿記が公式の会計資料として採用された*4

実際には、江戸時代やそれ以前にも*5複式簿記(というより利益計算)を行っていた形跡はあり、歴史的証拠は少ないが、江戸の三大商人をはじめとする商家には独自の会計技術が継承されていた*6

単式簿記の起源はもっと古く、現存する最古の記録である古代バビロニア(紀元前2000-1700年頃)のハンムラビ法典をはじめ、エジプトの会計記録官の存在*7、ローマの会計記録、ギリシャの貨幣制度(いずれも紀元前600年頃)など、いくつかの歴史的記録があるとされる*8


なお、複式簿記の発展は株式会社の成り立ちと結びついていて、前述の14-15世紀のヴェネツィアの商人によるエジプトへのワイン等の輸出と香辛料の輸入において*9利益計算に使われ、香辛料の流通を起源とする17世紀の東インド会社(イギリス、オランダ)による期末・期首の概念の追加*10、19世紀産業革命に伴う綿花の流通(織機、蒸気機関アメリカ大陸における鉄道と電信の発達)に伴って開発された工業簿記、会社の有限責任(資本家と経営者の分離)、減価償却の概念などを含む会計学への昇格*11があったとされる*12

なお、複式簿記は「何を仕入れたか」を記録する「もの」勘定でなく、「誰から仕入れ、誰に売ったか」を記録する「ひと」勘定を起源としている*13

会計帳簿と法

現在、上場企業が開示する資料には「帳簿」(法人税法第54条)と「書類」(法人税法第59条)がある*14

貸借対照表」や「損益計算書」はそのうちの「書類」にあたり、誰でも閲覧できる。「帳簿」にあたるものには「仕訳帳」や「総勘定元帳」があり、一部の関係者のみが閲覧できる。*15

上場企業だけでなくほとんどの会社は、納税額の正当性を証明するために、期の終わりに年次記録を作成する(会社法432条ほか)*16


貸借対照表損益計算書は「会計帳簿」(会社法432)*17を基に作成することになっており、この会計帳簿は「主要簿」と「補助簿」に分かれる。

「主要簿」は先ほどの法人税法上の帳簿と同じく仕訳帳と総勘定元帳を指す*18

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会計帳簿上の主要簿(仕訳帳と総勘定元帳)

また、主要な補助簿として「現金出納帳」「商品有高帳」「仕入帳」「売上帳」(三分法での決算に必要な最小書類)のほか、掛取引に必要な「買掛帳」「売掛帳」「預金出納帳」がある。また通常は公益事業に必要な税について、課税・非課税を明確にする書類として「経費帳」「固定資産台帳」がある*19

考察

調べてみて分かったのは、総勘定元帳(主要簿)と、決算書類の作成に使うその他の帳簿(補助簿)の区別を、ちゃんと理解できてなかったことでした。また、決算書の作成に関する法律については、会社法、商法、法人税法などに横断的に書かれていますが、各法の関心の枠が違うため、同じ帳簿が複数の区分に属するなど、少し複雑でした。

ここからはコーディングの話になりますが、最も小さな取引から実装してみる、それも前提知識を取っ払って、最も小さく、最も最終成果物に近いところからデータ構造を再定義してみることで、現在の会計システムの必然性、着眼点、意図、運用上の問題などが見え、非常に面白い体験となっています。

通常、簿記試験では、現在使用されている完成された体系を学ぶので、実務で使うものと使わないもの、そのすべてを含みます。学校の教育システムと同じで、学問の成り立ちよりも、今ある姿について学習者に理解を示してもらうアプローチを取っているところも、興味深いと感じます。汎用な戦力を求めるための資格なので、そうあるべきだと思いますが、起源から追ってみるのも悪くないと思いました。

(以上)

*1:複式簿記の起源|YZK|note

*2:簿記 - Wikipedia

*3:西川孝治郎文庫 | 一橋大学附属図書館

*4:簿記の歴史 - スマホで学べるスタディング簿記講座

*5:飛鳥時代律令制 - 江戸時代には独自の複式簿記が存在していた?! | 社会人の簿記・会計系資格取得のためのブログ

*6:江戸時代の帳簿は一家伝来の技術だった!? – MONEY PLUS

*7:エジプトの会計記録官 - そもそも会計とは | 東京クリニック開業支援センター

*8:簿記の歴史をさかのぼってみる | 決算書Web

*9:簿記の歴史〜複式簿記の始まりと株式会社の起源〜

*10:世界初の株式会社「東インド会社」はなぜ誕生したのか? – MONEY PLUS

*11:十七・八世紀イギリス会計史の研究 - 立教大学リポジトリ(pdf)

*12:簿記の社会的役割 - 商学研究第50巻第1号 p.68(pdf)

*13:簿記組織の歴史的発展 - 立教大学リポジトリ(pdf)

*14:No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法|国税庁

*15:会計帳簿って?計算書類って?? | 北御堂筋パートナーズ法律事務所 弁護士 長屋卓嗣

*16:小商人を除いて会計帳簿の提出義務がある - 商法第7条(小商人)の解説 | 法律条文解説

*17:会社法432条 - 会社法の条文と解説Web

*18:株式会社の会計帳簿の作成と保存について教えてください。 | ビジネスQ&A | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]

*19:補助元帳と補助記入帳の役割とは? | クラウド会計ソフト マネーフォワード